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皆さん方は「員外取引」もしくは「員外利用」という言葉をお聞きになったことがあると思います。
員外取引(又は員外利用、以下同)とは、協同組合が組合員以外の者とする取引を指すわけですが、ここで員外取引として問題とするのは、その取引が組合施設(有形的・無形的施設)利用と競合関係にたつ形において、員外者が組合施設を利用する場合です。例えば、員外者に対する組合基金の貸付、員外者の組合倉庫の利用などが考えられます。
これらの事例のケースでは、組合員のこれら施設(基金・倉庫)利用と競合関係にたちます。平たく言えば組合員は員外者に利用させている範囲では自分達の利用を制限されることになるわけです。
従って、逆に員外者との取引であってもこのような競合関係にない場合、例えば組合員の生産した商品の共同販売、組合員のために物資を共同購入するなどはここで問題にする員外取引ではありません。
それどころかこれらの取引は協同組合本来の目的を達成するために必要なもで、むしろ奨励されるものです。 |
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前述のように、員外取引というものはある意味では既存組合員の犠牲のもとになされるわけですから、元来、協同組合のもつ助成団体性ないしは顧客的社員関係という特質とは異質のものであって、形式論理的に言えばそれは禁止されるべきものです。
しかし実際には、前のケースのうち組合基金の員外貸は原則として禁止され、倉庫の員外利用などは制限付で許容されています。
このように一口に員外取引と言っても、何ら問題とならない場合と禁止されて駄目な場合とがあります。
では、この2つを区別する基準は何でしょうか、即ちその許容限度のメルクマールをどう把握すべきでしょうか。
このような命題に対しては、正直なところ法律学の宿命として世の中で実際に生じた事例を実後的に詳細に分析して振り分けるほかはないのですが、大体以下に掲げる3つの要件をクリアーしていることが必要でしょう。
第1に、組合員が実際に利用したいと思うときに、その利用請求権を阻害しないことを要件とすることです。
どういうことかと言いますと、例えば農閑期における農業倉庫の員外利用のような場合です。この時期には通常組合員からの倉庫利用の申込が予想されず且つ現実にその利用がないときに始めて、員外者の利用申込に応じることができるということです。
第2に、施設利用の頻度ないし度合について、員外者の利用分量が組合員のそれに比較して相当量の制限を受けるべきことが要件とされるでしょう。
この点について中協法第9条の2第3項は、組合のできる事業のうち1つとして、組合員の利用に支障がない場合に限り組合員以外の者にその事業を利用させることができるが、その場合の利用分量の総額は組合員の20パーセントをこえてはならない、と規定しています。
かような趣旨からすると、前述の相当量の制限というのは、質量ともに全体の利用量の5分の1程度ということになるでしょう。
第3に、員外取引が結果的に、組合員の利益に還元される必要があるということです。
先の農閉期における農業倉庫の員外利用の例でいいますと、員外者から支払われる倉庫の賃貸料は、組合基金の増成となり結果的には組合員の個別経済助成に寄与することになります。
以下の3つの要件を夫々個別に検討して許容されるかどうかを判断することになると思います。
ところで、わが国の各種協同組合法の員外利用に関する態度はまちまちですが、このうち中小企業協同組合については定款の任意的記載事項として一定の限度で原則的に許容の立場をとり、その許容の限度として前述のように20パーセントとしています。
因みに、法はこの20パーセントの分量のことしか規定していませんが、この要件だけではなく他の2つの要件も充足しなければなりません。 |
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では次に実際によく問題となる事例のうち員外貸付と員外保証について考えてみることにします。
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員外貸付 |
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前述しましたように、組合の資金、基金を組合員以外の従者に貸し付けることは、協同組合の助成団体的性格に照らして無効とされます。従来の判例はこれを員外貸付はそもそも協同組合の目的の範囲外の行為であることを理由としてその効力を否定してきました。
それは、組合資金は本来自分達組合員皆のものなのにそれを外部の者に貸し付けるとは何事かという考えが横たわっているのだと思います。
このような考えはそれ自体としては誠にもっともなことでありますが、形の上では員外者に対する貸付契約であってもその目的が組合の利益を守るためであるような場合には、それは結局、組合基金の維持につながり引いては組合助成の目的に沿うことになるのだから有効としてもいいのではないかというように幾分柔軟に考えるようになってきました。
判例の中にもこのような有効説を唱えるものが見受けられるようになりましたが、主流はやはり依然として無効説です。
判例が員外貸付を例外的に有効とするケースは、例えば員外貸付の相手方が後日組合員になった場合にその貸付を有効とする、また組合が組合員に対して有する債権の回収策として員外者との間で前述の組合員の債務の代位弁済契約を締結する場合、さらには員外者たる業者との間で業者が集荷したりんごを組合が委託販売してその手数料を受け取る契約を締結しその際りんごの集荷資吉を貸付け後日その帳尻を準消費貸借に改める場合などです。
いずれもその根底には、これらは組合の利益を守るためで組合助成の目的に沿うものであるという前提があります。 |
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員外保証 |
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これは、組合が員外者の債務のためにその者の保証人となる場合にそのような保証は有効かという問題です。
員外保証に関する裁判例としては、中協法に基づく信用組合に関するものが数多く見受けられ、保証の内容としては民事保証よりも手形保証の事例が多いようです。
結論から言って、裁判例は民事保証についてはその有効性を否定し、手形保証については肯定するのが大勢のようです。
一般の民事保証については、実際に保証債務を履行されると組合員が多大の不利益を受け同時に組合の経済的基礎を危うくし組合の助成団体性や相互扶助の目的に反することになるとしています。
協同組合のような非営利法人の権利能力や行為能力をこのように狭く解釈すると一般取引の安全を害することがありうることは認めなければなりませんが、協同組合という団体の存在を認める以上それは不可避の結果であり、具体的に著しい不合理な事態が生じたときには信義則等の適用によって個別的な救済を図るほかはないでしょう。
次に、手形保証については、手形行為自体の抽象性・手段性に着目して手形行為が経済取引に必要な手段であって、そもそも客観的に事業目的遂行に必要な行為として目的の範囲に属するということを理由として有効だとしています。
従って、組合は善意の第三者に対しては責任を負うことになります。 |
(平成2年3月 40号掲載) |