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組合員は組合加入に当って一定の出資をなすものであり、以後組合の事業活動の変遷に応じ、組合の有する資産に対して前述の出資額に応じた持分を有することになります。
そこで当然、組合員が当該組合を脱退するときは通常の場合、組合に対して、自己の持分の返還を請求する権利が発生することになります。
これを持分払戻請求といい、金銭の支払を請求する純然たる債権で、勿論これ自体財産的価値を有するものです。
従って、その組合員に対して金銭支払の債権を有する債権者は自己の債権の弁済を確保するために組合員のこの持分払戻請求権に目をつけるのは当然です。
他の債権者がこの払戻請求権に目をつけるとして、では具体的にどういう処置にでてくるかといいますと、自己の債権を確保するためにこの払戻請求権を組合員に支払われないように一時固定し、あわよくばこれを組合員に代わって全部自分の方へ頂いてしまおうということになります。
この一時固定するというのを保全処分といい、組合員に代わって全部頂いてしまうのを差押、転付または取立命令といいます。 |
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では次に保全処分というのを少し詳しく説明します。
保全処分とは正式の裁判を起こし勝訴の判決を得ても、その間に債務者が自己の財産を第三者に譲渡したり隠したりしてしまったときは、その判決に基づいて強制執行をしてもその実効をおさめないことになります。しかも裁判は債務者の争い方如何では相当長期間にわたることがありますからその危機は充分にあります。
このような危険を避けるため、債務者の私有財産を債務者の手元から逃げたり離れたりしないように、一時固定することを言います。しかもこの保全処分には仮差押と仮処分とがありますが、本題のように持分払戻請求権が対象となるようなときは大部分仮差押命令です。 |
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そこでこれらを本題の場合にあてはめて見ますと、AがBに対して金銭支払の債権を有しているとき、AはBが脱退するにあたって組合に対して有する持分払戻請求権自体に対し仮差押をしてきます。
仮差押命令は、この払戻請求権を仮に差し押える、第三債務者たる組合はBに対して払戻してはならない旨の命令が裁判所から発せられます。
(組合がこの命令を無視してBに払戻をすれば、後でAに対して二重払いをしなければならなくなります。)
組合がこの仮差押命令の送達を受けたときは、払戻金は一時後に転付命令か取立命令が発せられるまでそのまま保管するかあるいは法務局に供託しなければなりません。
この場合Bは倒産によって行方不明になっていることが多いので安易にAの甘言に乗ってBを抜きにして示談などしないよう注意して下さい。
また、この場合いくつもの仮差押が競合した時は、必ず供託しなければなりません。 |
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仮差押の後しばらくしてAの申請に基づいて裁判所から本差押と転付命令か取立命令ができます。
本差押、転付、取立命令はAがBに対して本訴を提起し勝訴判決を得てそれに基づいて発せられる強制執行です。
いずれかの命令が発せられたときは組合はAに対して支払ってもかまいません。またこの場合も供託することもできます。
そして、もしA以外からもこれら命令が発せられこれらが競合したときは必ず供託しなければなりません。
いずれにしろ、組合がこれら供託をしたときは正規に払戻したと同様にその義務を免れることになります。
注意しなければならないことはこれらの場合Aは組合とは本来何ら関係のない者であり、従ってAB間のいざこざも組合とは無関係ですから事情にもよりますが、AB間の争いに首を突っ込まないことです。
組合としては決められた法定手続によって事務的に処理してゆくことが何よりも肝要だと思います。
(昭和59年7月 17号掲載) |
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